やぶれ&かぶれ

ぼろぼろの人が主に職場で書く日記

抜け毛の雨の中で見た世界

2020年の秋、髪の毛が大量に抜け始めた。秋と言えば経験上多少抜け毛が多くなる気がしていたが、今回のそれは見たことの無い量であった。アレ?そういえば最近…と思い始めたら日に日にその量が増していった。

シャンプー中に絡まった髪を手で梳くと、ズルズルと大量の毛が指に絡まってくるのが感触でわかる。手を見ると束になって抜けている。細い筆なら作れそうな量だ。ヒエーである。怖いのでなるべく手櫛を通さないように洗うも、排水溝に大量の髪が次々に吸い込まれていくのが見える。

もともと多い、太い、硬いの三拍子そろった髪質で、猫っ毛で少ない髪の人が羨ましかった。オシャレな人に剛毛はまずいないからである。何をしても野暮ったい髪を呪いはしたが、一方薄毛の心配などしたことがなく、むしろちょっと抜けた方が丁度いいと思うほどであった。しかしここまで抜けるとさすがに不安になってくる。分け目や頭頂部も以前より地肌が目立ち、前髪もスカスカになってきたような気がする。

私は慌ててハゲについて調べた。女のハゲにも薬はあることにはあるようだが、高いし一生飲み続けなければいけないというのが嫌なのでナシ。マッサージや栄養を補うサプリなど出来るだけのことをして、それでもダメならウィッグを着けようと決めた。薄毛に悩んでいる女性がいろいろなウィッグを着けてTwitterに写真をアップしたりしているのを見たらめちゃくちゃ自然でおしゃれで、逆に今の剛毛より格段に良い髪質になるのでその点で逆に不自然ではないかと思ってしまうぐらいだった。

覚悟は決めた。それでも髪は相変らず抜け続けた。家の床は私の髪の毛がそこらじゅうに落ちているし、シャンプーの時排水溝に落ちた髪を数えると毎日100本以上ある。調べると普通の人でも1日に50~100本程度抜けるらしいが、シャンプーの時に抜けるのはその7割程で、100本以上シャンプーで抜ける時は要注意とのことだった。たまに60本の日があっておお?と思っても次の日に150本抜けて落ち込む。覚悟を決めたつもりでも私の頭の中は髪の毛の事ばかりだった。

スマホを触る時間があると髪、髪、髪。髪のことばかり調べていた。すると一年間毎日シャンプーの抜け毛の量を数えて記録する人のブログを見つけた。世界は広い。その人は男性で、多毛でハゲではないそうだけれど、100本以上抜ける日もかなりあり、そのデータは私のかすかな希望を照らした。

あと、5ちゃんねるのハゲ・ズラ板にも行ってしまった。「髪の薄い芸能人」スレでは、その名の通り髪の薄い芸能人の画像が貼られ皆でああだこうだ言うのだが、ハゲを笑ったり馬鹿にしたりはあまりない。こうやってセットすれば目立たないのに、とか、こういう髪質の人はどこどこから抜けてくるなぜなら自分がそうだから、みたいなことを言う。その中ではちょいちょい多毛の中高年の有名人の画像が貼られ「こんだけドフサだったら人生何の悩みも無かっただろう」「この年齢でこれだけドフサならもう人生勝ちだ」などと言ったりする。挙句の果てには、髪の豊かな中高年有名人の写真を貼っては「ドフサ判定お願いします」などと言うのである。もう「髪の豊かな有名人」スレである。皆、髪に焦がれている。大学生の頃、夜にお腹が減るとISDN回線でつないだインターネットでファミレスのメニューやコンビニの新商品情報をただ見るというのを何時間も何時間もやっていたけれど、それと似たようなものなのではないかと思う。

 

出来ることは一通りやってみた。タンパク質を意識的に多く摂取し、頭皮を冷やさないようにドライヤーでちゃんと髪を乾かした(大変ズボラで申し上げにくいのだけど長らく髪は自然乾燥で過ごしていた)。マッサージもした。あと、前にツイッターでシャンプーの前にぬるま湯を2、3分浴び続けると髪に良いと見たのを思い出し、滝行のごとくぬるま湯シャワーを頭皮に打ち続けた。この刺激がいつか発毛の萌芽となると信じて。

そんな日が何カ月かつづいて、もちろん多少ブレはするが抜け毛が100本以上→100本前後→80本とゆっくりと減ってきた。シャンプーやドライヤーの時にも抜け毛が減ってきたかもしれないという実感もわずかに出てきた。

その実感とともに、抜け毛を数える習慣が減っていった。ふと思い立って数えてみても30本ぐらいなのだった。

そして2月、3月になり、地肌はまだ目立つ感じがするが抜け毛は以前の水準に戻りほとんど気にならなくなった。あの激しい抜け毛が加齢によるものなのか秋の定例抜け毛のパワーアップバージョンだったのか、栄養や生活によるものだったのかはわからない。私は抜けた髪を排水溝のアミから取り出して数えることはなくなった。でも髪が濡れっぱなしだと普通に寒いなということに気が付いたし、シャワーでの滝行やマッサージは気持ちいいので、髪を生やすために試した色々なことはその心地よさからわりと毎日の習慣となった。そしてなぜか5chの「髪の薄い芸能人スレ」で髪の豊かな有名人を見ることも習慣として残った。これもまた、私にとって心地よいものだったのだろうか。