お金が欲しかった
朝、電車を降りて改札を出たら、PASMOのチャージが百円ちょっとだった。
帰りに慌てないようチャージしとこうと思ってカバンから財布を出そうとしたら、ない。
財布を忘れた。
うちの職場は通勤の際、定期ではなく交通費はすべてPASMOにチャージして、チャージ分を支給してもらうという形をとっている。
なので、チャージもない、お金もない。つまり帰れない。
こんなにたくさんの人がいるのに、帰りの電車賃もない人ってこの中にいるのだろうか。
華原朋美の歌の歌詞のようなアーバンな孤独がここに本当にあった。
会社で誰かに借りようにも、職場は上司一人、私一人の小さな事務所で、たった一人の同僚である上司は出張で今日一日不在である。
詰んだ。詰み。ディズニー詰む詰む。
とりあえず職場に向かい、事務所があるビルの入り口で受付のお姉さんと挨拶をする。
最悪、この人に借りよう……と勝手に心に決める。
親しくもなんともないのだが、この街で私と面識があるのはこの人だけなのだ。
事務所に着いて、自分の机の引き出しをかたっぱしから開けて現金を探す。500円でいい。
書類トレイの下、名刺入れの中こんなとこにいるはずもないのに。
まあ、ないのである。
でも名刺入れに、私が貧乏学生時代使っていたちばぎん(千葉銀行)のキャッシュカカードが入っていた。
私が大学生の頃使ったのが最後だから…まあざっと50年は経っているだろうか。
使えるのかもわからない上、貧乏だったあの頃のメインバンク。ちばぎん。千円単位でおろしていたので、残高が数百円でATMで下ろせず~END~ということも大いにあるのだ。
それでも私にはこれしかない。
近くのコンビニに駆け込み、やや食い気味でATMにカードを突っ込む。
まだ使える…のか?
祈るような気持ちで残高照会をする。いや、本当に祈っていた。
残高 2180円
信じられない。二千円も。二千円も入っていた。
100円ローソンのうどんばかり食べていた私が、二千円も口座に残していた。
貧乏な頃の過去の私が助けに来てくれた。
感動にむせび泣きながら二千円を握りしめた私は、事務所に戻って心置きなくM-1グランプリ2019記者会見の生配信を見た。
ティンティンと間違えやすいです。