やぶれ&かぶれ

ぼろぼろの人が主に職場で書く日記

じじいに巻き込まれるということ

「メンチカツとチーズって合うのか~?」

スーパーの総菜売り場。大きな声でそう唐突にじじいに話しかけられてハッと思い出した。知らないオッサンに距離無しで絡まれる感覚。今住んでいる所は比較的若い年代のファミリーが多く、よくわからないオッサンはあまり居ないのでこの感じを忘れていた。

 

思えばじじいによく巻き込まれてきた今までであった。

「オジサンにモテるっていう自慢?」とはくれぐれも思わないで欲しい。あくまで、「じじいに巻き込まれる」だけなのである。話したくて我慢できないじじいに話しかけられ、気が済んだらじじいは去っていく。それだけのことなのだ。じじいには何も求められていない。ただタイミング良くそこに居たのが私だということだ。

 

大学生の頃、本屋でいきなり「おじさん、ジャッキーチェンの親戚なんだよ」と見知らぬじじいに言われたこともあった。明らかに嘘なのだが、あまり深く関わりたくないので「はあ、そうなんですね…。」などと適当に相槌を打っていると 

「ジャッキーチェンって何歳だと思う?」「何の映画に出てるか知ってる?」

とジャッキーチェンの知識を求められ、私がそこでモゴモゴしているとそのままどこかに消えて行った。何だったんだ今のは。

 

この手のじじい、概して声がでかい。コソコソっと話しかけてくれば聞こえないふり、独り言とみなすなどして無視もできようものだが、大声で面と向かって堂々と話しかけられると決して気が強くない私は何か返さざるを得ない状況になってしまうのである。

 

社会人になりたてのある日、私は遊びに行くべく常磐線上り列車上野行きに乗っていた。金曜の夜、下り方面はラッシュであろうが上りはぽつぽつと人がいるだけで、私は4人がけのボックス席に一人で座っていた。すると、ある駅でスーツ姿の三人組のじじいが乗ってきたのである。こともあろうにそのじじいトリオは「ここが空いている」とやいのやいの言いながら私の座るボックス席に三人で座ってきた。

じじい達は既に軽く酔っているようで、席に座ると各々が缶ビールを開け、私の存在などないかのように酒盛りを始めた。率直に居心地が悪い。

ここが私の良くない所なのだが、そこですぐに席を立てないという弱さがある。相手に嫌な思いをさせてしまうのではないか、そこまでするほどそもそも私は不快なのだろうか、そうモタモタ考えているうちに一人のじじいが私に缶ビールを渡してきた。ここでもまた私の良くない癖である迎合主義が出てしまいそれを受け取ってしまう。こうして知らない三人のじじいと一緒に何故か常磐線で飲むことになってしまった。あんなに白い目で見ていた常磐線のドランカー。私もついにその一部となってしまったことに肩を落とす。

 聞けばじじい達はお通夜帰りという。どういう関係の人が亡くなればこうも楽しそうに通夜から帰宅していくのだろうか。ワーッと来たじじい達であったが、乗車時間は10分ほどでワーッと降りて行った。嵐。じじい達から帰り際に握らされたミックスナッツの袋を手に呆然としながら私は缶に残ったビールを飲むしかないのであった。

「何だったんだ」

 

それから10年以上経って、今総菜売り場で初対面のじじいにメンチカツとチーズの相性について問われている。

「おいしいんじゃないですかね」

完全に無視できず、また適当な相槌を打ってしまう。10年経っても私は変わらない。じじいは「カミさんが医者で忙しいから俺が買い物係なんだ~。」と自分語りをし、「やっぱり魚を食わないとダメだよな!」と言って結局アジフライをパックに詰めて去って行った。私の意見などハナから必要としていないのである。また思う。「何だったんだ」

 

この先10年、20年したらこういったじじいもいなくなってしまうのだろうか。それとも、今は大人しい私と同年代の人たちもじじいに成長したらデカい声で喋って回りの人を巻き込んでいるのだろうか。

そんなことを考えながらレジに並ぼうとするとさっきのチーズメンチじじいがレジにいた。軽く挨拶でもした方が良いのかと気まずい思いでモジモジしていたら、そんな私をじじいは気にする素振りもなく会計をすませ颯爽と帰宅していったのだった。